洗練した「おしゃれ」に込めた建築家の拘り|-階段-
意匠堂には「おしゃれ」な家を建てて欲しいというお客様が多く来られます。
ただ、一言で「おしゃれ」と言いましても様々ございます。
ここではお客様からこんな感じにして欲しいとリクエストの多い画像を
今回は「階段」列挙してみたいと思います。
画像をクリックで詳細施工事例をご覧頂けます。
◆階段
動線から風景へ ― 階段が生む体験の変化
階段は“動線”という実用から出発しながら、その存在が空間の質を決定づける。
段板の踏み心地、手すりの断面、視線の抜け、足元に落ちる影――
階段には「身体的体験」と「視覚的体験」が同時に折り重なる。
上りきった先にどのような景色を見せるか。
途中で振り返れば何が見えるのか。
階段は、家の奥行きそのものを演出する特別な役割をもつ。
構造が語る個性:階段タイプ別の魅力
1 スケルトン階段の透明感
スケルトン階段は、重さを消し、視線を通し、空間に“気配だけ”を残す。
段板のリズムが浮かび上がり、空気が階段をすり抜けるような軽やかさを生む。
2 鉄素地階段の強さと静けさ
鉄素地の階段は、金属が持つ緊張感と素地の静けさが共存する。
無塗装に近い質感は経年で深みを増し、住まいの“時間”を刻む要素になる。
3 渡り廊下が紡ぐ“宙に浮く動線”
階段と接続する渡り廊下は、空中に線を引くような感覚をもつ。
床の揺らぎ、透ける手すり、下階との距離感――
上下階をただつなぐのでなく、家の内部に“余白の風景”をつくりだす。
4 螺旋階段の彫刻的存在感
螺旋階段は、構造そのものが彫刻である。
曲線が空間を包み、ゆっくりと身体を回転させながら上昇させる。
限られた面積で強い存在を示す、その姿は家の象徴にもなり得る。
5 グレーチング階段の呼吸する段板
グレーチングは透過性を持ち、光も風も“階段を通過”する。
足元が軽くなるだけでなく、上下階をやさしくつなぎ、空間同士を呼吸させるような設えになる。
6 片持ち階段の陰影がつくる浮遊感
片持ち階段は、壁から段板だけが突き出す構造。
重力から解放されたような軽さと、段板の影が明確なリズムを刻む美しさがある。
階段が光によって“浮かび上がる”瞬間は、建築の魔法のようだ。

黒のスケルトン階段
光が通り抜ける構成が空間をやわらかく結び、
壁面に落ちる繊細な陰影が静けさと緊張感を同時に描き出す、
伸びやかな広がりのある景色をつくり出している

鉄素地の階段&渡り廊下
素地の鉄がつくる無骨な質感が木と光に溶け込み、
縦格子の陰影と重なって透明感のある立体構成を生む。
屋内外が連続するような開放的な動線が魅力

黒の螺旋階段
黒鉄の螺旋が空間に滑らかな曲線を描き、
縦に伸びる光と重なりながら上階へと誘う。
造形の存在感と軽やかさが同居し、場に静かなリズムを与えている。

グレーチング階段
光と風を通すグレーチングの踏板が、
室内に軽やかな抜け感を与える。
金属の質感が空間を引き締め、
柔らかな木床との対比がモダンで心地よい表情を生み出している。

片持ち階段
壁から軽やかに突き出す片持ちの踏板が、
空間に浮遊感をもたらす。
木の質感が白い壁と調和し、
抜けのあるデザインがリビング全体を明るく開放的に見せている
日常を少しだけ美しくするために
階段に宿る微細な感情
階段は、住まいの中で最も無意識に触れている建築だ。
踏板の角の丸み、手すりに触れたときの温度、
踊り場でふと立ち止まった瞬間の静けさ――
そうした微細な感覚が、暮らしにほのかな情緒を添える。
建築家が階段にこだわるのは、その“触れられた瞬間”が
住まいの記憶になることを知っているからだ。
建築の中に静かに置かれる贈り物
階段に美学を宿すことは、生活を少しだけ上質へと引き上げる行為だ。
それは決して華美ではなく、むしろ静かで慎ましい。
毎日なんとなく行き来する場所が、ふとした瞬間に美しく見える――
そんな“ささやかな幸福”を仕込むことこそ、
建築家の仕事の核心なのかもしれない。
階段は、住まいの奥にそっと忍ばせた、静かな贈り物である。

和泉 尚志 代表取締役社長

