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注文住宅の間取りと空間設計|建築家が語る、理想の『建築デザイン』とは?

デザインといいましても意匠を表現するものから、パッシブデザインのように機能性を指すものまでさまざまです。
ここでは空間・間取りについての見解や私見を述べさせていただきます。


我々のような一級建築士事務所では一軒一軒オリジナルの家を設計し、一棟ごとに建築確認申請を行います。
これにより敷地条件やライフスタイルに合わせた自由なプラン提案が可能になります。
将来のリノベーションやライフスタイルの変化にも対応しやすいというメリットも魅力のひとつです。

その一方で、自由設計と謳ってはいても実は多くの住宅メーカーは”型式認定工法”という、あらかじめ申請済みのプランの中から選ぶ方式を採用しています。
そのため、希望を伝えても柔軟な間取り変更ができないことがあります。

これらをご理解いただいた上で、以下をご覧いただけますと幸いです。

はじめに:建築デザインの本質

住宅の”デザイン”というと、見た目の意匠を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、建築におけるデザインとは、住まい手の暮らしや動線、将来の変化までを見据えた空間構成のことであり、見た目だけでは語りきれない奥深いものです。

この記事では、一級建築士事務所として私たちが考える「空間デザイン」や「間取りの考え方」について、日々の実務や住まい手の声をもとに解説していきます。

住まい手のリアルな声に応える設計とは

設計の第一歩は、クライアントからのヒアリングです。最近増えている声として、以下のようなご要望があります。

  • 雨に濡れず玄関まで行きたい → ビルトインガレージ
  • 大きな窓がほしいが、外からの視線は遮りたい → 中庭のある家・コートハウス
  • 夜に洗濯しても乾かせる空間がほしい → 生乾き臭対策+空調設計
  • 掃除をロボットに任せたい → バリアフリー+ロボット掃除機対応
  • 限られた広さでも空間に遊びがほしい → スキップフロアやロフト
  • 広く見える家をコストを抑えてつくりたい → 視覚的広がりの演出

1. 『ビルトインガレージ』は今や家族全体のニーズに

ビルトインガレージ

かつてのビルトインガレージといえば、ご主人が趣味の車を眺めながら生活したいなどの趣味空間としてのニーズが主でした。
しかしながら昨今では、奥様からの要望も多くなっています。
雨の日でも濡れずに車から自宅への乗り降りや荷物の出し入れができることから、日用品のお買い物やベビーカーの積み下ろし、お子さまの送迎など、普段使いの利便性を向上させるメリットが魅力のようです。

一般的なエクステリア工事で既製品のカーポートを設置するのではなく、建築物として一体で建ててしまうことで耐久性も高く、さらに見栄えの良い完全に濡れない空間が実現可能です。
価格との相談にはなりますが、既製品のカーポートでも良いものとなれば安くはありません。

2. プライバシーと採光を両立する『中庭のある家』

中庭のある家・コートハウスのLDK

外からの視線を遮りながら、太陽の光をたっぷり取り入れたい
——そんな矛盾を解決するのが中庭です。

建売住宅などでリビングに大きな窓が有るのだけれど、近隣や通行人に見られてしまうのでカーテンを閉めっぱなしにしている住宅をよく見かけませんか?
せっかくの日当たりをも遮ってしまい、健康にもよくありません。

そこで我々がおすすめするものが中庭を囲う家(コートハウス)です。
充分に陽が入る中庭を間取り動線で囲うことで、構造からプライバシーを担保。
カーテン不要の明るいリビングでの暮らしは、健康的な生活にもつながります。
道路や隣家との関係性が気になる敷地ほど、コートハウス型の設計が効果的です。

3. 室内干しは『空調設計』とセットで考える

住宅ランドリールーム室内物干しデザイン

ただ単に”室内物干スペース”だけでは、快適な洗濯動線は実現しません。
湿気やカビ対策、生乾き臭の防止には、空調設計+動線設計が欠かせません。

従来の洗濯動線は
“洗濯→屋外へ干す→室内へ取りこむ→畳む→各部屋のクローゼットへ片づける”
という時間のかかるものでした。
さらに、屋外へ干すと近年話題となっているPM2.5や花粉、その他の有害物質に晒されてしまいます。

これらの諸問題を解決すべく、我々がご提案するのが
”洗濯→干す→片付ける”という一連の動作を一直線でつなぎ、尚且つ生乾き臭カットという理想的なプランニングです。
これは間取り動線のみプランすればよいものではありません。
衣類収納と水回り動線をつなぐといった一見利便的な動線設計は、湿気の影響からせっかくの乾いた衣類がカビてしまうリスクを伴います。そのためには空調を整えなければ絵に描いた餅になってしまうのです。
ちなみに我々の注文住宅では全館空調補助システムや空気の流れ、臭いの元になるカビ対策まで緻密に計算して水回り動線を提案しておりますので安心です。

4. バリアフリー×ロボット掃除機=段差のない暮らし

バリアフリーにすることで高齢者にもやさしい家になりますが、そこに”ロボット掃除機が活躍できる”という視点を加えると、さらに利便性が上がります。

しかしながら、ロボット掃除機の対策としてはバリアフリーにするだけでは不充分です。
ダイニングテーブルの脚や障害物となりうるものを極力減らすことも大切でしょう。
見栄えの観点からその発着場もきちんとプランニングの段階で考えなければなりません。
家具の配置や掃除機の発着場の確保など、プランの初期段階から意識することで、日々の暮らしがぐっと快適になります。

5. 空間に奥行きや面白さを

階段の踊り場を活用したワークスペース

これは贅沢品になる場合もあれば高コスパ住宅への近道となる場合があります。
具体的には子供部屋で4.5帖に1帖の収納を付けると合計5.5帖になります。
ここを立体的に考え、下は収納、上を居住スペースとすれば4.5帖で収まり面積を節約できます。(法令に従って平均天井高や換気量に従ったプランが必要)

リビングにロフトが欲しいという場合、これは往々にして価格の上昇につながります。
空いた空間を有効に使いたいという気持ちは理解できますが意外とコストがかかるので設計段階でよくよく相談することをお勧めします。

また、狭小地に理想の間取りを詰め込みたい場合にはスキップフロアーをお勧めします。
首都圏ではよく採用されますが、これは狭い土地しか無いといった場合に限られます。
実家のとなりの余っている土地に建てるとか、その土地以外考えられない場合のみです。
これは構造も特殊になり建物自体の価格が皆様の想像より高くなってしまうからです。
それだけコストをかけるなら他の広い土地を購入した方が高コスパになるケースが多くなります。

このような場合は建築家や工務店とよくよく相談することをお勧めいたします。

6. 広い家を建てたいが・・・コストは抑えたい

平屋コートハウスのLDK

この場合、クライアントの考え方を理解した上で我々は実寸の広さより感覚や見た目での広さを追求します。
これは、昨今の懐事情も関係しており、価格的な問題で広い住宅を建築できないというケースが多いという現実からも非常に重要なテーマとして取り組んでいます。

人間の感覚というものは意外と不正確で、同じ広さのリビングでも開口部(窓)や仕切りが少ないリビングは広く感じ、中庭が面していて床の素材をあわせるなどの工夫をすればもっと広く感じます。
これらを窓の少ないリビングと比較したらどうでしょう?
住宅の価格は広さを抑えれば安易に価格がさがります。

例えば30帖のリビングがほしいというクライアントがいたとしましょう。
この方はなぜ30帖ほしいと希望されたのでしょうか?我々はここで深堀りしていきます。
見た目や感覚が広いほうが良いのか、家具や設置物の観点からその広さが必要なのか、詳しくお伺いしていきます。
数字だけで広さを決めつけるのではなく30帖に感じるリビングでよいとなれば価格が抑えられるでしょう。

まとめ:理想の住まいは、パートナー選びから始まる

ここまでご覧いただいたニーズ、いかがでしたでしょうか?
これら以外にも様々な希望や理想があるように現代のニーズは多様化しております。

では我々のような設計会社なら好き勝手なプランニングができるのか?
厳密に言えば自由度は高いが耐震等級のしばりや断熱性能、各種性能値、気密性能など法的制限や住宅性能を加味しながらの設計になるため、“完全な自由ではない”ということだけはご理解いただければと思います。

現代の新しいライフスタイルにあわせた独自の空間を作り出すには

自身の夢や憧れ、理想の生活を叶えながら、末永く安心・快適に暮らせる“自由な家づくり”を実現するためには、以下の点をチェックしてみてください:

  • 建築確認申請の申請方法が各戸、1棟ずつ行う会社か?
  • 複数のプラン提案が可能か?
  • 3Dソフトなど家づくりが理解しやすい提案手法があるか?
  • 担当者にセンスと実績があるか?
  • 丁寧なヒアリングをしてくれるか?その理解力・再現力があるか?

要は・・・住宅会社のセレクト及び担当者選びが重要となってきます。

理想の空間を形にするには、設計者との対話と信頼が欠かせません。
住まい手の思いを汲み取り、それをデザインに落とし込む技術と感性が、真に快適で心地よい家を生み出す鍵なのです。

もっと知っておきたい「家づくりの背景」

私が幼少の頃はどのお家にお邪魔しても同じような間取りばかりでした。
これは周りの目を気にする風潮や社会通念、情報不足、生活様式など様々な要因から合理性や利便性を追求しにくい時代背景があったと思われます。
その点、現代社会では親の口出しも少なく(援助も減りましたが汗)夫婦がお互いの意見を出し合い自由な発想で家を作れる風潮が整ってきたことから、自由設計の時代と言えるでしょう。

ただ、それを提供する多くの住宅メーカーは未だに同じような普通の間取りを提供しているのが現実で、これには理由があるのをご存じでしょうか?

住宅を建てるためには各種の法律を遵守する必要があります。
建築する前段階で役所や関連機関に対して“建築確認申請”という手続きが必要です。
どのような家をどこに建て、建ぺい率や容積率、用途など法律に照らし合わせる必要があるためです。
この“建築確認申請”には図面作成から必要資料収集、申請から申請交付までに数か月単位の時間を要します。

我々のような一級建築士事務所は一軒一軒その建築確認申請を提出するため、様々なプランがあっても問題はありません。
ですが、大手の住宅メーカーなどは住宅供給戸数も多いため、各戸を個別で申請しているゆとりがないことが現状です。
よって決められた工法・間取りを事前に申請しておく「型式認定工法」が多く採用されています。

全てが「型式認定」の家とは限りませんが似たような間取りが多いのはこれが原因です。

正式には、建築基準法で言うところの「第68条の10の条文」にあたり「型式適合認定」と言いますが、型式認定工法には、家を建てる方にとってメリットもあればデメリットもあります。
ただ、実際の型式認定工法はハウスメーカーよりの法律となってしまっているため、どちらかといえば、家を建てる方にとってデメリットの方が際立つことが多いように思われます。

今回の記事ではできるだけ中立的な立場でお話したいので、型式認定工法を採用している住宅会社で建てる場合は、契約前にぜひ一度読んで頂き、メリット・デメリットを十分に承知した上で依頼することをおすすめします。

そうでないと、あとあとの増改築の際に面倒なことになったり、リフォームやリノベーションを行う際の費用が高く見積もられたり、挙句の果てには増改築ができないといったデメリットが生じることも実際にありうるので、将来的なライフプランを含め十分に検討してから依頼するのがいいと思います。

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和泉 尚志 代表取締役社長